裁量労働の感想


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 ここ数日、かつてないほどの盛り上がりを見せているワードになった「裁量労働」。

 IT関連の業務についてる方にとっては今更な制度だったので「ふーん。みんな死ねば?」くらいの感想でしたが、「早く帰れる」とか「柔軟な働き方」とか現実ありえないことばかりが喧伝されていたりなかなかカオスな感じなので実際に裁量労働契約で働いたことの感想について残しておくのもいいかもしれないと思い書いてみました。

 ※ただしこれ、会社によってほんとに運用形態が違いますし、あくまで一例、個人の感想として考えて下さい。うろ覚えや印象論、データとして提示できないところもあるので論じるには弱いこと承知してます。そしてむしろ「私裁量労働だけどすごい自由で楽だよ!」って報告待ってる。

裁量労働制とは

 時間と結果が比例しない一部の業務において、その仕事をどうやるか労働者に一任する契約方針です。

 結果が出せるならどうやるかは任せる、ってことですね。

 そして給料については残業代も含めて特定の時間を基準とした金額を先に決めておいて、それだけの時間を働いたとみなしたものとして支給する。働いた時間に関わらず、その金額を支払うものになります。

 (これによって残業代ゼロになる話については、勤務時間と支給額を控えてなくて適当なことが言えないのでノーコメントです。本当にすまない。昔はどうせ裁量だからって残業時間気にしてなかったし、後半は割とやる気なくて残業月40時間超えてなかったし…)

 ただこちらの契約は特定の業種しか結ぶことはできないため、一部業界では一般的でも多くの人には縁のない契約形態になっているのかもしれません。

 裁量労働制 (Wikipedia)

私の裁量労働

 経歴としては、7年ほど裁量労働、その後2年くらい一般勤務、転職して一般勤務です(契約書に裁量って書いてないから多分一般勤務)

 同じ企業内で裁量契約と一般勤務契約の二つを経験することもあんまりないのかなと思います。

 しかし結論からいうと、裁量労働も一般勤務も違いを全く感じませんでした。

 むしろ何の裁量があったか聞きたい。いや実際聞いたんですけど。

裁量労働の勤務時間

 まずは勤務時間ですが、定時に出社して定時に帰っていました。

 遅刻したら遅刻をつけて、早退の時は早退とつけてました。

 僕の気分が乗らないから出社を午後からにする、みたいなことは7年間一度もありませんでした。

 一部の許されている人は、気分によって在宅ワークしたりとかしていたみたいなので、たぶん契約上はできたんだろうとは思います。

 またよく言われている「早く終わったら早く帰れる」論ですが、仕事が早く終わったから定時より早く帰ったことはこれまた一度もありません。

 そもそも次の進めるべきタスクがそこにあるんだから終わったら帰るとかあるわけないじゃん。

 あの言葉につられて裁量労働を推している労働者の方がいるならこの言葉を贈りたいと思います。「ちょろいな…」

裁量労働の残業

 固定残業代で40時間分があらかじめ支給額に入っていました。月の残業時間が40時間を下回っていてもこのぶんだけは貰えていました。皆さん本当に気になるところは「月40時間を超えたらどうなるのか」ですが、データを控えていなかったのでわからなくなってしまいました。本当にすまない…

 一般勤務のほうでも固定残業代30時間分で、こちらについては30時間を超えた場合は支給される事になっていたはずです。昔はともかく、今では裁量労働でも同様になっていたかもしれません。

 

 しかし月の給料に40時間分が既に前払いされている状態で、残業せざるを得ない現実からすると「40時間までは残業代ゼロ」って感じでした。

 これもアレですよね、よく聞くのは「作業効率を上げて規定時間内に収めれば残業代分が労働者のトクになる」って論。信じて裁量労働を推してる労働者の方が居たらこの言葉を贈りたいと思います。「おめでてーな。」

 2つの欺瞞があります。1つは「残業代込みの月収になるから少し高めに感じるけど基本給で考えるとそうでもない」。もう1つは「個人の努力で規定時間内に仕事が収められるとは限らない」。後者について具体的に言うと俺が努力したら会議の時間やトラブル対応が減るんかよってことです。それ俺のせい?

 最近こちらの記事を読んで腑に落ちたのですが、裁量労働に業務量の裁量はないのですね。

これは、要するに、業務量については労働者には裁量がないということを意味します。

なるほどと思いました。確かに、次のタスクがあるけど理由も無く早上がりしてたらただのサボりとして取られますよね。

裁量労働の業務遂行形態

 普通に仕様を話しあって、普通にやること決めて、普通に進めてました。

 この仕事の進め方は一般勤務になってからも変わらなくて…むしろ何が裁量だったのか。

 (逆にこの進め方が一般的には例外的だった可能性もありますが、他の進め方をしているところで働いてないのでわからないです)

 

 入社してすぐくらいに、何の裁量があるのかって話になったことがあります。私から聞いたか向こうから説明されたかは忘れてしまいましたが。出てきた回答は「残業を気にせず好きなだけクオリティを追求できる」

 なんか当時の思想として、「できないやつが時間を掛けて仕上げたぶん、残業代で手取りが増えるのはおかしい→裁量労働だ!」って流れがあったようです。今もそのつもりかは知りません。私が聞いたの10年くらい前の話だし。

 そういうわけで「何の裁量があるのか」に対する答えは「残業する裁量をやろう」でした。

 

 ちなみにその頃は、「(固定残業代40時間分を払っているから)一日の作業量は10時間分で見積もれ」とも言われてました。今だったら「10時間で見積もったら10時間以上掛かるだろ馬鹿じゃねーの」って言えますが当時は若かったので言われたとおり見積もってました。意識的には「残業代40時間ぶん前払い」から転じての「1日10時間労働」だったってことですね。

実際に裁量労働をしてみての感想

日本人にはまだ早い。

「裁量労働制」はハードワーカーが歓迎する制度

 私個人としては、裁量労働制そのものは否定しません。

 ただ、言われているような「勤務時間が短くなる」ことはないと思っています。

 「柔軟な働き方」はできるかもしれませんが、それは勤務途中で子どもを迎えに行くとかではなく、どこまで人生を仕事につっこめるかのほうかなとも思います。

 つまりよりハードワークしたい人のための制度なのかなあと。

 

 それ自体は別に良いと思っています。仕事の時間を減らしたい人がいるなら仕事の時間を延ばしたい人がいてもいい。一つの仕事に6時間使う人と10時間使う人で、結果が同じなら同じ賃金にしないとおかしい。残業がどうとか管理部につっつかれずに仕事に打ち込みたい。

 私自身も、興が乗ってるときは定時とかに邪魔されずぶっつづけで仕事したいときはあります。趣味と仕事が近しいとより感じるところです。

 そこまで行くならフリーでやれって話でもあるけどアレはアレでめんどいしできれば社属のままでってのもわかります。

裁量労働の現在から幸せが見えてこない

 ですが、これを現代日本で肯定して広めてもいいのかと言われると…

 すでに多数の人が裁量労働契約で働いている状況で、怨嗟の声は聞こえるけど幸せの声は聞こえてこないのが一つの答えなのではないでしょうか。

 ネガティブな声はポジティブな声より大きくなるものとはいえ、現状は差が開きすぎでしょ。

 裁量労働そのものはすでに実施されているので、やってみないとわからないようなものではない。労働時間が短くなるのか多様な働き方ができているのかなどについてはすでに結果が出ている。適用されている現状から判断をするべきです。厚労省ががんばって作ったデータですら勤務時間が平均9時間16分 (一般勤務は平均9時間37分)ってこの時点でもうぜんぜん早く帰れてねーってことじゃないか。

一般勤務との差は「気兼ねなく残業が出来る」ことだけ

 結果的に、一般勤務との差はなんだったのかと言えば、「気兼ねなく残業できる」ことだけだったと思います。

 一般勤務だと残業するときに届け出が…って話があったような気もします。(でも一般勤務になってからも出した覚えは無い)

 たぶん残業代がかさむと管理部からつつかれるんだろうなって感じ。

 昨今では「働き方改革」の影響もあり、残業時間が多いことがつつかれていたようなのでもっと一般勤務とかわらない感じになってるかもしれない。

 

 しかしこれ、言い方を変えると「残業する責任をマネジメントから個別の作業者に転換している」わけでもあるので、注意が必要な点でもあります。もともとの裁量労働が「業務の責任を個別の作業者が負う」ことですから趣旨は合っていますが。

 

 また残念ながら私は適用前に辞めてしまいましたが、フルフレックスの導入も考えられていました。これは裁量・一般勤務両方にです。フレックス制度は別に裁量だからできることではないのです。

 固定残業代も一般勤務30時間だったし (裁量契約40時間より下がっていたところは差異がありますね。結果として給料下がりました)、裁量じゃなければみなし残業にならないこともなかったです。

残業代削減には効果があったかもしれない

 裁量労働の効果といえば、残業代は削減できていたかもしれないですね。裁量労働ではなく固定残業代制度のほうですが。

 軽く試算したところ月40時間の残業代を固定給として含めておくことで従業員1人あたり年100万円ほど節約できます。なるほど。

 今の一般勤務者を裁量に切り替えるときに、支払いを据え置きで残業40時間を追加することは難しいと思いますが、今後のことを考えると話がまた変わってきますね。

 労働者ではなく経営者側の実績として経費削減ができていたことは確かではないかと思いますから、その面で拡大したいって話であれば筋が通ります。

 うちの元部署が導入した理由も、「できないやつが時間使ってるのに手取りが増えるのはシャク」みたいなそれでしたしね…

裁量労働自体は使い方次第だが、労働者のためには使われていない

 つまり労働者側のメリットとデメリットを見たときに、デメリットしかないレベルでデメリットが大きいと考えています。

 裁量労働自体は、制度としては言われているように「作業が終わったら早く帰れる」とか「柔軟な仕事の進め方が出来る」とかあると思いますし、それがなされている職場であれば労働者から導入も歓迎されると思います。

 でも職場の慣習だったり文化だったりマネジメント層の考え方だったりがそのようなものを否定して、結局台無しにしているところがあるのではないかと感じています。ここは現場の話なので、経営者のせいにするのはちょっと違うかな…

 10年後あたりにはまた違った話になるかもしれませんが、現状は「日本の職場環境にはまだ早い」と思います。少なくとも現在適用されている労働者から是非推進したいって声が多く聞こえるようになるまでは危険だと。

 おそらく裁量労働で上手くやっていけるのは、セルフマネジメントができて多大な業務量が振ってきても突っぱねられるような強い人、いわば準フリーランス、社属フリーランスくらいの強さがある人ではないかなと思います。そういう方々はぐだぐだ言われない裁量労働のほうがやりやすいだろうしそう契約することを別に止めません。報酬の交渉も、残業代云々なんてレベルの話じゃないでしょうし。

 

 これは私の経験に基づく感想なので、世の中にはきちんと運用された職場もあるのかもしれません。裁量労働の理念自体は悪いと思っておらず、また経営者が諸悪の根源とも言い切れない、現場での運用面が問題だと思います。

 「ウチはちゃんと運用しているから自由に働けているし結果として離職率の低下や残業代削減にも繋がっているから双方ハッピー」みたいなところがどんどん出てきてくれると良いのですが、裁量労働を適用しただけではそうならないので、もっと時間が、言ってしまえば世代交代が必要なんでしょう。

 なのでそれまでは、裁量労働を広げるって話に賛成する理由は無いなと思っています。

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